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中山可穂「男役」


ムラ帰りの新幹線の中で何か小説でも読みたいなあとふと思い立ったので、ハードカバー重てぇな…と思いはしつつ、前から気になってはいたこの本を手に取ってみた。
ソリオの本屋でレビュー本の隣にこれみよがしに置いてあったから…




トップになって二日目に舞台事故で亡くなった50年前の伝説の男役スター・扇乙矢。以後、大劇場の奈落に棲みつく宝塚の守護神ファントムさんとして語り継がれてきた。大劇場では月組トップスター如月すみれのサヨナラ公演の幕が開き、その新人公演の主役に大抜擢された永遠ひかるの前にあらわれた奇跡とは―。男役という稀有な芸への熱いオマージュを込めて中山可穂が情感豊かに描く、悲しく切ない恋愛幻想譚


中山可穂さんという作家さんのことはこの本で初めて知ったのだけれど、私好みの文体だったのでとても読みやすかった。
ふだんは百合描写がかなり強めの人だというのは読んだ後で知ったので、ちょっと他のも読んでみたいなあ。

内容としては、よく出来た宝塚版オペラ座の怪人風夢小説といった感じかな……
とても良く出来た夢小説なので、私は嫌いじゃなかったんだけど、うん。夢小説だった(笑)
ドラマチックなようでいてその実チープっていう設定が多くて、ちょっとめまぐるし過ぎたのかも。
あとは結局どの人の思いを描きたかったのかがどうも伝わってこなかったというか。
いろんなことを書きすぎているのかもと思った。
作者ご本人は現代能楽集として執筆したそうなので、おそらく主題は亡霊:ファントムさんの恋だったのだと思うのだけれど、それにしては如月すみれというトップ男役の人間的な深みの描写が良過ぎて、私はどうもこちらの方がメインに見えてしまった。
如月すみれのことがもっと知りたいなあと思う。
彼女がどうして男役であることに拘ったのかや、半年の休演の謎や、ファントムさんとの長い年月のこと。
終わり方が、続編書く気まんまんだよ!って感じだったので、続編があるならここに期待したいなあという感じ。

あと、ものすごくさら~っとひかるとレオンの関係についての描写があったけれど、ここは下衆な興味心でもっと深く書いて欲しかった(笑)
それはともかくとして、この二人のシーンは若い子らしいというか下級生らしい瑞々しさがあって読んでいて楽しかった。チャリンコ2ケツで(しかも大声で歌いながら)稽古場にやってくるの想像して思わず笑ってしまう。
そりゃ組長さんから大目玉くらうわ。

レオンというキャラクターは、出番は多いのになんだか扱いがモブっぽくて、でも私は彼女のこと結構好きだなあと思う。
「レオン」といえば皆あの人を思い描くと思うのだけれど、特にキャラに似たものもないし、ひらがなしゃべりでもないのでなんであの名前にしたかはちょっと謎。
どっちかというとまあ様っぽい?というイメージ。私は。

レオンだけでなく個々の登場人物に特にモデルはいないらしいし、読んでいても「このキャラはこの人だな」っていうのも特になかったのだけれど、何故だかずっとファントムさんをあさこトートでイメージしていて、本文中で何度となくファントムさんは黒燕尾をまとい羽根を背負っているという描写を読みつつも、私の中ではトート閣下の衣装だった。なぜだ。

たぶんこの本を私がその気になれば宝塚に入れると思っていた中1~2くらいの夢見がち期に読んでいたら、夜も眠れなくなるくらいのときめきを抱いただろうなあと思う。
そういう心の煌きみたいなものはなく「夢見がちだけど嫌いじゃないわ」という感想に成ってしまうあたり、私も大人になったもんだと思った。
宝塚ファン的に見ると、露悪的な描写がないことと、作者が敬意をもって題材にしていることは伝わってくるので、悪く無かったと思う。
変に内情を知ってる風の書き込みもしないし、宝塚モチーフ作にありがちなドロドロもない良いファンタジーだったなあ。
私は小説は写実的であればあるほど良いとは思わないので、これは心地よくちょっとチープなファンタジーとして評価できると思う。
夢小説みたいにチープな設定は多いけれど、それこそがこの本をすみれの園の御伽噺たらしめる大きな要素なのかもしれない。





以下、ネタバレありですので、未読の方にはおすすめしません。

チャメ(主人公ひかるの祖母でファントムの相手役)の認知症設定、要らなかったと思う。
クライマックスでチャメの魂がファントムに抱きかかえられて劇場を出て行くシーン(=死)はチープではあるものの、うっとりとするほど甘美で耽美だし、いいクライマックスだと思うので劇場で静かに死を迎えること自体は悪くなかったと思う。
ただ、別に認知症にする必要はなかったなあ。
チャメが自分の意志で孫娘が、自分の相手役の命を奪った作品の新人公演を観に来てそこでファントムと再会して看取られた方がドラマチックだったんじゃないかしら。
唐突な、たくましすぎる認知症患者がいつのまにか劇場にたどり着いてたみたいなのはちょっと違ったと思う。
とはいえ、「私はあなたの相手役のトップ娘役よ」ってファントムさんに言ってお姫様抱っこで劇場から連れ出してもらうのを要求する消えていくチャメさんのところはぐっときたね。
たった2日間だけしかトップコンビで要られなかった二人だけれど、いいコンビだったんだろうなあ。
ファントムさんは娘役だからというのではなくて恋愛感情でチャメが好きだったそうですが。
脚本家を含めてのこれまたチープな三角関係でさ~~~。いいけどよ~。


あと、ファントムさんがとにかくひかるに手を貸し過ぎだった。
百歩譲ってチャメに自分の姿を見せるために新人公演でひかるにとりつくのは許せるけど、ことあるごとにひかるにとりついてセビリアの赤い月を演じてみせるのはちょっとどうなのよ~って思っていた。
そこは自分でやらせないの?ちょいと世話焼きさん過ぎない?と私は思った。

クライマックスで、最愛のチャメを看取ってから誰もファントムさんには会っていないってことだったから成仏したのかなあと思っていたんだけど、ご存命(?)だったのでこれはまだまだ続きがある可能性あるなあという終わり方だった。
自分も舞台上で死んでファントムさんになりたかった如月すみれがこれから東京での退団公演でどうなるのかはとっても気になるけれど、ファントムさんはムラから出られないらしいので、そこはもう逸話みたいな形でひかるが語る形でしか分からないんだろうなあ。